山口地方裁判所 昭和29年(タ)9号 判決
原告 今井蔦子
被告 検察官
一、主 文
亡今井介六が昭和五年一月二十日届出でなした原告に対する認知は無効とする
訴訟費用は被告の負担とする
二、事 実
原告は主文同旨の判決を求め原告は父亡今井介六、母今井愛子の庶子女と戸籍に記載されておるが事実は父今井時雄母今井愛子の長女となるべきである。原告の実父母時雄愛子は昭和四年の春事実上の結婚をした。ところが父の時雄は亡今井介六と家庭内が円満に行ざるため今井の家を出た。原告は当時母愛子の母胎にあり父時雄と母が夫婦になる見込のないまゝ過ぐる内昭和五年一月七日出生した。原告の出生届出につき母愛子は私生子として届出るに忍びず遂に今井介六に相談した揚句父なき子は将来何かと苦労するものと思い今井介六が原告を認知して昭和五年一月二十日庶子出生届出をした次第である。その後実父今井時雄は母愛子と同棲することになり昭和八年一月二十一日養父今井介六と実父時雄は養子縁組をなし同時に婚姻届をなしたものである。前述の通りにて原告の実父母は時雄愛子であるので今井介六の認知は不実の届出であるから之を無効とすることの裁判を求めるため本訴に及んだと述べた。<立証省略>
被告は原告の請求棄却の判決を求め今井介六は既に死んでおるのであるから原告の主張が真実であるか否か証拠調の必要があると述べた。<立証省略>
三、理 由
先づ被告の当事者適格に付て案ずるのに認知者が死亡した後は検察官を相手方として認知無効の訴を起すことは出来ないという考(昭和二十年七月三十一日大審院判決参照)もあるがどんないやな人間から認知をされてもそれが真実の親であれば仕方がないが(生物は遺憾ながら親を選択する権利はない)いやな人間でしかも真実の親でない者から認知をされたのにその人間が死んだために認知無効の訴を起すことが出来ないと云うのは余り子(否真実は子でない)の立場を無視した考と思われる。親なんか甲であろうと乙であろうとどうでもよいではないか、もう死んでしまつたのだから戸籍の記載のまゝで我慢しろと云うのは今日の一般の国民感情は固より法律感情にも適しない考ではあるまいか、それも法律にどうしてもさう解釈しなければならない条文があるならば止むを得ないかも知れないがそれ程の条文は無ささうである。そこで当裁判所は人事訴訟手続法第三十二条第二項の条文を認知無効の訴にも類推適用するを相当と認め被告検察官に当事者適格ありと解する。よつて進んで内容に入り審理を遂げるのに成立に争のない甲第一号証戸籍謄本及証人中司清一、今井時雄の証言を綜合すれば原告主張の事実は全部之を認めるに足りる。
以上の如くであるから原告の本訴請求を正当とし民事訴訟法第八十九条を適用し主文の如く判決する。
(裁判官 河辺義一)